COLUMN医師監修コラム
豊胸の他院修正|シリコンバッグ・脂肪注入のトラブルを解決
2025.10.25
理想のバストを手に入れるために決断した豊胸手術。しかし、その結果が思い描いていたものと異なり、「形が不自然」「硬くなってしまった」「左右差が気になる」といった、予期せぬトラブルや深い悩みを抱えてしまう方が少なくありません。
一度目の手術で満足できなかったという経験は、身体的な問題だけでなく、深い心の傷となり、誰にも相談できずに一人で苦しんでいる方もいらっしゃいます。
豊胸の他院修正は、そのような困難な状況にある方々のために、初回の豊胸手術によって生じた様々な問題を解決し、美しく自然なバストを取り戻すための再手術です。これは単なる「やり直し」ではなく、初回手術で生じた解剖学的な変化を乗り越え、より複雑な条件下で理想の形を再構築する、非常に高度な医療技術です。
この記事では、豊胸の他院修正を検討されている方へ向けて、よくある失敗例から具体的な修正方法、そして最も重要である信頼できる医師の選び方まで、専門的な情報を包括的に、そして深く掘り下げて解説します。過去の手術への後悔を乗り越え、未来への希望を見出すための一助となれば幸いです。
目次
1. 豊胸手術でよくある失敗と悩み
豊胸手術後の悩みは、単に「もう少し大きくしたかった」といった希望とのズレから、明らかな変形や痛みといった医学的な問題まで、その内容は多岐にわたります。他院修正を希望される方々が抱える、代表的な失敗例と悩みを、まずは手術方法別に見ていきましょう。シリコンバッグ豊胸に関する悩みシリコンバッグは確実なボリュームアップが可能ですが、人工物を体内に留置するため、身体との相互作用によって特有のトラブルが生じることがあります。
- 硬さ・変形(被膜拘縮): 身体がバッグの周りに作る膜(被膜)が厚く硬くなり、バッグを締め付ける状態です。初期は触ると硬い程度ですが、進行するとお椀を伏せたような不自然な形になり、見た目にも明らかに異常がわかります。痛みや圧迫感を伴うこともあります。
- 大きさ・形の不満: バストが大きすぎる、または小さすぎる。ご自身の体格に合っていない。また、左右の大きさや形が違うなど、デザインに関する不満です。
- 位置の異常: バッグの位置が本来あるべき場所からずれてしまった状態です。位置が高すぎる(ハイライディング)、低すぎる(ボトミングアウト)、あるいは外側に離れすぎている(離れ乳)など、様々なバリエーションがあります。
- 輪郭が浮き出る(リプリング): 特に痩せ型の方や、皮膚が薄い方に見られます。バッグの縁や、バッグ表面のシワが、皮膚の上から波打つように見えてしまう現象です。
- 破損: バッグそのものが経年劣化や強い衝撃で破損し、内容物が漏れ出すことです。近年のバッグは耐久性が高く、内容物も漏れ出しにくいジェル状になっていますが、リスクはゼロではありません。
- 痛み: 手術後、数ヶ月以上経過しても続く慢性的な痛みや、ズキズキとした違和感です。
脂肪注入豊胸に関する悩み自己組織を用いるため自然な仕上がりが期待できますが、注入した脂肪が「生着」する過程で問題が起きることがあります。
- しこり: 注入した脂肪が血流不足で壊死し、固まってしまった状態です。触るとコリコリとしたしこりとして感じられます。オイル状の液体が袋に溜まる「オイルシスト」や、石のように硬くなる「石灰化」など、複数の種類があります。
- 吸収・サイズダウン: 注入した脂肪が想定以上に体に吸収されてしまい、十分なサイズアップ効果が得られなかった、あるいは術後数ヶ月で元に戻ってしまったと感じるケースです。
- 左右差: 左右のバストで脂肪の定着率が異なり、バストの大きさに明らかな差ができてしまった状態です。
- 感染: 非常に稀ですが、術後に細菌感染を起こし、バスト全体が赤く腫れ上がり、強い痛みや熱感が生じる状態です。
- 脂肪の壊死: 注入した脂肪が広範囲に壊死し、硬いしこりや嚢胞(オイルシスト)が多数形成されてしまった状態です。
どちらの術式にも共通する悩み
- 全体的なデザインの不満: 個々のパーツの形は問題なくても、ご自身の体格(肩幅や身長)や全体の雰囲気と調和しておらず、全体としてアンバランスに見えるという、より高度なデザインに関する不満です。
- 傷跡の問題: わきの下やアンダーバストの切開創が、思った以上に赤く盛り上がったり、幅広く目立ってしまったりする状態です。
2. シリコンバッグの拘縮、破損、左右差
シリコンバッグ豊胸は、確実なサイズアップが可能な優れた方法ですが、人工物(インプラント)を体内に入れるという特性上、特有のトラブルが発生する可能性があります。その中でも他院修正の原因として特に多いのが「拘縮」「破損」「左右差」です。被膜拘縮(ひまくこうしゅく)これはシリコンバッグ豊胸後に最も多く見られる合併症であり、他院修正の最大の理由の一つです。
- メカニズム: 体内に異物であるシリコンバッグが入ると、身体は正常な防御反応として、その周りに薄いコラーゲンの膜(被膜)を作ります。この被膜自体は、バッグを正しい位置に保持する役割も果たす、本来は必要なものです。しかし、何らかの原因でこの被膜が異常に厚く、硬くなり、風船のようにバッグを強く締め付けてしまう状態、これが被膜拘縮です。
- 原因: 明確な原因は未だに解明されていませんが、術後の血腫(内出血がバッグの周りに溜まること)や、微量な細菌感染(バイオフィルム形成)、患者様自身の体質などが複合的に関与していると考えられています。
- 修正方法: 修正手術では、この硬くなった被膜を可能な限り切除(カプセル切除)し、バッグが締め付けから解放されるようにします。そして、新しいスペースを作った上で、新しいバッグへの入れ替えや除去を行います。
破損
- 原因: 胸部への強い衝撃(交通事故など)や、バッグ自体の経年劣化によって、シリコンバッグの膜が破れることがあります。近年の高品質なバッグは、多層構造で非常に耐久性が高く、内容物も漏れ出しにくいジェル状(コヒーシブシリコン)になっていますが、リスクはゼロではありません。特に10年以上前に入れられた古いタイプのバッグは注意が必要です。
- 症状: 破損すると、バストの形が崩れたり、急に柔らかくなったり、サイズが小さくなったりといった変化が現れます。内容物が被膜の外に漏れ出すと(被膜外破損)、周囲の組織に炎症を起こし、痛みや違和感、しこりを伴うこともあります。
- 診断と修正: 破損が疑われる場合は、マンモグラフィや超音波(エコー)検査、MRI検査といった画像診断で状態を正確に確認します。破損が確定したら、速やかにバッグを入れ替え、漏れ出た内容物や炎症を起こした組織をきれいに洗浄する手術が必要です。
左右差術後、バストの大きさや形、位置に左右差が生じることがあります。人間の身体は元々完全な左右対称ではないため、ある程度の差は許容範囲ですが、明らかに目立つ場合は修正の対象となります。
- 原因:
- デザイン・手技の問題: 初回手術のデザイン時点で左右差が考慮されていなかったり、バッグを入れるスペース(ポケット)の作成に左右差があったりする場合。
- 被膜拘縮の程度の差: 片方のバストだけが拘縮を起こし、硬く小さくなってしまう場合。
- バッグの位置異常(マルポジション): バッグが正しい位置からずれてしまった場合。例えば、片方だけが外側に流れて離れ乳になったり、下に落ちてしまったり(ボトミングアウト)するケースです。
- 修正方法: 修正手術では、超音波検査などでバッグとポケットの状態を詳細に評価し、左右差の原因を正確に突き止めます。その上で、バッグのポケットを再調整(狭めたり、広げたり)したり、場合によっては左右で異なるサイズのバッグに入れ替えたり、脂肪注入を併用して微調整したりすることで、限りなく左右対称に近い、バランスの取れたバストを目指します。
3. 脂肪注入後のしこり、壊死、吸収
ご自身の脂肪を使用するため、アレルギー反応がなく非常に自然で安全なイメージのある脂肪注入豊胸ですが、こちらも特有のトラブルが存在します。その多くは、注入した脂肪細胞が、移植先でうまく生着できなかった(=血流を得て生き残れなかった)ことに起因します。しこり脂肪注入後に最も多く聞かれる悩みが「しこり」です。
- しこりの種類:
- オイルシスト(油嚢胞): 壊死した脂肪細胞が溶けて、オリーブオイルのような液体となり、身体が作った薄い被膜に包まれて袋状になったものです。触ると柔らかく、ブヨブヨ、プニプニしており、エコー検査では黒い袋として映ります。
- 脂肪壊死: 壊死した脂肪組織が、オイル状にならずにそのまま硬く変化したものです。炎症を伴い、痛みの原因になることもあります。
- 石灰化: 壊死した脂肪組織の周りに、身体の防御反応としてカルシウムが沈着し、レントゲンに映るほど石のように硬くなったものです。乳がんの兆候である「悪性石灰化」との鑑別が重要になります。
- 原因: しこりの最大の原因は、一度に大量の脂肪を塊として注入してしまうことです。
- 修正方法: 小さなものであれば経過観察となることもありますが、大きいもの(直径2-3cm以上)や痛みを伴うもの、硬いものは修正手術の対象となります。
吸収・サイズダウン
- メカニズム: 注入された脂肪は、そのすべてがバストに定着(生着)するわけではありません。個人差や、医師の技術差はありますが、一般的に注入した脂肪のうち、20%〜50%程度は体内に吸収されてしまいます。この吸収率を予測して、希望より少し多めに注入するのが一般的です。
- 問題となるケース:
- 過度な吸収: 注入技術が未熟で定着率が著しく低い場合、想定以上に吸収が進んでしまい、期待したほどのサイズアップ効果が得られないことがあります。
- 左右差の発生: 左右のバストで脂肪の定着率が異なると、術後半年から1年の時点で、バストの大きさに新たな左右差が生まれてしまうことがあります。
- 修正方法: この問題を修正するためには、再度脂肪を採取し、注入する「追加注入」が必要になります。その際は、初回の反省を踏まえ、より定着率を高めるための工夫(良質な脂肪だけを採取する、脂肪の質を高める処理を入念に行う、少量ずつ多層に細かく注入する技術など)が、執刀医に強く求められます。
4. 不自然な形や大きさの修正
被膜拘縮やしこりといった明らかな医学的トラブルだけでなく、純粋にデザイン、つまり形や大きさに対する不満も、他院修正を希望される非常に多い理由です。これは、初回のカウンセリングで、患者様の希望と医師の美的センス、そして技術力との間に「ズレ」があった場合に起こりがちです。大きさに関する不満
- 大きすぎる: グラマラスなバストを希望したものの、実際に手術してみると、ご自身の体格(特に肩幅や胴体の厚み)に対して大きすぎ、アンバランスになってしまったケースです。慢性的な肩こりや腰痛の原因になったり、太って見えたり、「いかにも豊胸した」と分かる不自然な見た目になってしまったりします。
- 修正方法: より小さいサイズのシリコンバッグに入れ替えるのが一般的です。脂肪注入で大きくなりすぎた場合は、脂肪溶解注射や脂肪吸引で調整しますが、難易度は非常に高くなります。
- 小さすぎる: 脂肪注入で思ったより吸収されてしまった、あるいはシリコンバッグのサイズ選択が控えめすぎて、術後の変化をほとんど実感できなかったケースです。
- 修正方法: より大きいサイズのバッグに入れ替えるか、脂肪を追加注入します。
形に関する不満
- お椀型・ボール型: バストの上半分(デコルテ部分)が不自然に盛り上がり、お椀を伏せたような、あるいはボールが入っているような不自然な輪郭に見える状態です。被膜拘縮が原因であることも多いですが、バッグのサイズや形状の選択、挿入する層(乳腺下か大胸筋下か)が不適切である場合にも起こります。
- 離れ乳: バストが左右に離れすぎており、ブラジャーを着けても谷間ができない状態です。バッグを入れるポケットが外側に広すぎることが主な原因です。
- 修正方法: 手術でポケットの内側の縁を縫い縮め、バッグがそれ以上内側に寄らないようにする処置(内側縁の縫縮)が必要になります。
- 二段変形(ダブルバブル)・スヌーピー変形: バッグが本来の位置より下に落ちてしまい、元々の乳腺組織がバッグの上に乗っかって、バストが二段に見えてしまう状態です。特に、元々少し下垂気味のバストに、大胸筋下にバッグを入れた場合に起こりやすいとされています。
- 谷間が不自然: 谷間が一本の線のようになってしまったり(シンマスティア・癒合乳房)、逆に全く寄せられなかったりするケースです。これもポケット作成の技術的な問題に起因します。
5. 他院修正の手術方法(入れ替え、除去、脂肪注入)
豊胸の他院修正では、現在のバストの状態と、患者様が最終的にどのようなバストを目指すのかによって、様々な手術方法が選択されます。ここでは、代表的な3つの修正方法について、その詳細を解説します。シリコンバッグの入れ替え現在のシリコンバッグに何らかの問題(拘縮、破損、サイズや形の不満など)があり、引き続きバッグによる豊かなボリュームを希望する場合に選択される、最も一般的な修正方法です。
- 手術プロセス:
- 切開と剥離: 初回手術と同じ傷(わきの下やアンダーバスト)を切開し、バッグに到達します。初回手術による癒着があるため、周辺組織を傷つけないよう慎重な剥離操作が求められます。
- バッグと被膜の処置: 現在のバッグを慎重に取り出します。この際、最も重要なのが被膜(カプセル)の処置です。
- 被膜拘縮がある場合: 硬くなった被膜を可能な限り切除(被膜全切除または部分切除)し、バッグへの圧迫を取り除きます。
- 拘縮がない場合: ポケットの大きさを調整するために、被膜の一部を切開(被膜切開)したり、広すぎるポケットを縫い縮めたり(ポケット縫縮)します。
- 新規ポケットの作成: 新しいバッグのために、適切な大きさのポケットを正しい位置に再作成します。
- 新規バッグの挿入: 新しいシリコンバッグを正しい位置に挿入します。以前よりも新しい世代の、より自然で安全性の高いバッグ(例えば、表面が滑らかなスムースタイプから、拘縮リスクが低いとされるテクスチャードタイプへの変更など)を選択することも可能です。
シリコンバッグの除去「もう異物を体内に入れておくのが不安」「加齢を考え、元の自然なバストに戻したい」といった場合に選択される方法です。
- 手術プロセス: バッグと、可能であれば被膜を一緒に取り除きます。被膜をきれいに取り除くことで、将来的な体液の貯留などのリスクを減らすことができます。
- 除去後の問題点と対策: バッグ除去における最大の問題は、バッグによって長年引き伸ばされていた皮膚のたるみです。中身がなくなると、風船がしぼんだようにバスト全体が垂れ下がり、貧弱な印象になってしまう可能性があります。
- たるみが軽度の場合: 除去のみで終了することもありますが、多少のボリュームダウンと形の変化は避けられません。
- たるみが著しい場合: 美しい形に戻すためには、乳房吊り上げ術(リフトアップ/マストペクシー)を同時に行う必要があります。これは、乳輪の周りやアンダーバストの余分な皮膚を切除し、乳首の位置を高く調整して、ハリのある自然な形のバストを再建する手術です。
- ボリューム補充: 除去後のボリュームロスを補うために、脂肪注入を併用することも非常に有効な選択肢です。
脂肪注入による修正脂肪注入は、他院修正において非常に重要な役割を果たし、その応用範囲は広いです。
- バッグ除去後のボリューム補充: バッグを取り除いた後の、たるみやボリュームロスを補うために、ご自身の脂肪(太ももやお腹から採取)を注入する方法です。完全な元のサイズに戻すことは難しいですが、自然な柔らかさとある程度のボリュームを維持することができます。吊り上げ術との相性も抜群です。
- バッグの輪郭修正(ハイブリッド豊胸): 現在のバッグはそのままに、リプリング(輪郭が浮き出る現象)が気になる部分や、不自然に盛り上がったデコルテ、谷間の不自然な部分などに脂肪を注入し、バッグの輪郭を滑らかに整え、より自然な見た目に近づける、というハイブリッドな使い方も可能です。
- 左右差の微調整: バッグ入れ替え後も残るわずかな左右差などを、脂肪注入で精密に補正します。
6. 豊胸の他院修正の費用とダウンタイム
豊胸の他院修正を検討する際、費用とダウンタイムは、初回の豊胸手術と比較してより高額に、そしてより長くなる傾向があることを、まず現実として理解しておく必要があります。これは、修正手術が初回手術とは比較にならないほどの難易度と複雑さを伴うためです。費用について豊胸の他院修正の費用は、手術の内容によって大きく異なりますが、一般的に100万円〜300万円、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。
- 初回手術よりも高額になる理由:
- 手術時間の長さ: 初回手術によって生じた組織の癒着を丁寧に剥がしたり、硬くなった被膜を切除したりする作業には、非常に繊細な技術と長い時間が必要です。手術時間は初回よりも格段に長くなる傾向があります。
- 高度な技術料: 変形した組織を正常な状態に戻し、美しい形を再構築するためには、執刀医の極めて高度な技術と豊富な経験が不可欠です。この専門性に対する対価が、費用に反映されます。
- 複数の術式の組み合わせ: 例えば、バッグの入れ替えに加えて、脂肪注入や吊り上げ術が必要になると、それぞれの術式に対する費用が加算されていきます。
- 使用する材料・機材: 最新の高品質なシリコンバッグや、脂肪注入のために脂肪の質を高める特殊な機材(例:コンデンスリッチ、ピュアグラフトなど)を使用する場合、そのコストも含まれます。
ダウンタイムについてダウンタイム(手術後の回復期間)も、初回手術より長引くのが一般的です。身体への侵襲が大きくなるため、回復にもより多くの時間が必要となります。
- 痛み・腫れ・内出血: 組織の剥離範囲が広くなるため、初回よりも強い痛みや腫れ、内出血が出やすくなります。
- 活動の制限: 腕を上げたり、重いものを持ったりといった動作の制限も、初回より長期間にわたることがあります。シャワーは数日後から、入浴は1週間後からが目安です。
- 仕事復帰の目安: デスクワークであれば1週間〜10日、身体を動かす仕事の場合は最低1ヶ月は休むことを想定しておく必要があります。
- 完成までの期間: むくみのような腫れが完全に引き、内部の組織が柔らかく馴染んで最終的な完成形になるまでには、最低でも半年、多くの場合1年程度の時間を要します。術後3ヶ月の時点ではまだ完成ではありません。
7. 修正手術を受けるタイミング
「一刻も早く、この不満な状態から解放されたい」という焦る気持ちは、痛いほど理解できます。しかし、豊胸の他院修正においては、手術を受ける適切なタイミングを見極めることが、最終的な成功のために極めて重要です。焦って手術に踏み切ると、かえって満足のいかない結果を招く可能性があります。 修正手術を受けるべき最適なタイミングは、原則として「初回の豊胸手術から、最低でも半年、理想を言えば1年が経過していること」です。 なぜ、これほどの長い期間を待つ必要があるのでしょうか。それには明確な医学的理由があります。組織が完全に成熟し、柔らかくなるのを待つため手術を受けた後の身体の組織は、術後すぐは硬く、腫れており、まだ治癒過程の真っ只中にあります。この炎症が残る不安定な状態で再手術を行うと、様々なデメリットが生じます。
- 手術の難易度上昇: 組織が硬く、もろくなっているため、出血が多くなったり、正常な組織と癒着した部分の剥離が困難になったりします。これにより、手術時間が長引き、身体への負担が増大します。
- 結果の予測が困難: 組織がまだ安定していないため、修正後の腫れが引いた時に、どのような形に落ち着くのかを正確に予測することが難しくなります。
初回手術の最終的な結果を見極めるため術後数ヶ月の時点では、まだ腫れや拘縮の影響が残っており、それが最終的なバストの形ではありません。例えば、術後3ヶ月の時点では左右差があるように見えたり、形が不自然に感じられたりしても、半年後、1年後には組織が馴染んでそれが解消されている、ということも十分にあり得ます。 焦って修正手術をしてしまうと、「待っていれば自然に解決したかもしれない問題」に対して、不要なメスを入れることになりかねません。
精神的なクールダウンのため初回手術への不満や後悔から、精神的に落ち込んでいる状態で次の大きな決断をすると、冷静な判断ができないことがあります。一度時間を置くことで、感情的な波が落ち着き、ご自身が本当にどのようなバストを望んでいるのか、次の手術に何を求めるのかを、客観的に見つめ直すことができます。
例外的なケースただし、以下のような医学的に緊急性が高い、あるいは放置することで状態が悪化すると判断される場合は、この限りではありません。
- シリコンバッグの明らかな破損
- 強い痛みを伴う重度の被膜拘縮(グレードⅣ)
- 感染の兆候(赤み、熱感、強い痛み)
8. 乳がん検診への影響
豊胸手術後の乳がん検診については、初回手術の際にも説明を受けることが多いですが、他院修正手術を受けた後は、さらに注意深く、そして意識的な対応が必要になります。 修正手術によって、バストの内部構造はさらに複雑になり、初回手術による癒着や瘢痕組織も増えるため、検診の際の画像診断の質と精度に影響を与える可能性があるからです。シリコンバッグによる修正を受けた場合シリコンバッグが体内に入っている状態での乳がん検診は、マンモグラフィと超音波(エコー)検査が基本となります。
- マンモグラフィ:
- リスクと注意点: バストを板で挟んで圧迫するため、圧迫によるバッグ破損のリスクがゼロではありません。そのため、必ず豊胸手術(初回と修正手術の両方)を受けたことを問診票に記入し、口頭でも申告することが絶対条件です。
- 撮影方法: インプラント撮影に習熟した施設で受ける必要があります。バッグを後ろに寄せ、乳腺組織だけを撮影する「エklund(エクランド)法」という特殊な撮影を行いますが、修正手術による瘢痕組織の増加により、乳腺組織がさらに見えにくくなる可能性が考えられます。
- 読影の難易度: バッグの影で隠れる部分が多くなるため、診断の精度は豊胸前より低下します。
- 超音波(エコー)検査:
- 重要性: バッグの有無にかかわらず安全に行える、非常に重要な検査です。マンモグラフィで映し出せない部分を補完する役割があります。修正手術後の複雑な内部構造(被膜の状態、瘢痕、脂肪など)を評価するためにも、乳房の超音波検査に習熟した経験豊富な検査技師による丁寧な検査が求められます。
脂肪注入による修正を受けた場合脂肪注入で修正した場合、あるいはバッグ除去後に脂肪注入を行った場合も、検診時にはその旨を必ず正確に伝える必要があります。
- マンモグラフィ:
- 鑑別の問題点: 脂肪注入後に生じる良性の「石灰化」が、乳がんによる悪性の石灰化と区別がつきにくいという大きな問題があります。初回と修正、二度の手術による瘢痕や石灰化が混在するため、読影(画像を診断すること)の難易度はさらに上がります。経験豊富な読影医による診断が不可欠です。
- 超音波(エコー)検査:
- 鑑別の問題点: 脂肪注入後にできる良性の「しこり」(オイルシストや脂肪壊死)が、がんによる腫瘍と間違えられないように、手術歴を正確に伝えることが極めて重要です。
検診を受ける上での心構え
- 手術歴の正確な申告: 検診時には、「〇年前にAクリニックでシリコンバッグ豊胸を受け、△年前にBクリニックでバッグ除去と脂肪注入による修正手術を受けた」というように、これまでの手術の経緯をできるだけ正確に伝えましょう。手術記録のコピーがあれば持参するのが理想です。
- かかりつけ医を持つ: 可能であれば、ご自身のバストの状態を継続的に診てくれる乳腺外科の「かかりつけ医」を見つけておくと、ささいな変化にも気づいてもらいやすく、過去の画像との比較読影も可能になるため、非常に安心です。
9. 信頼できる豊胸修正の専門医
信頼できる医師をどのように見つければよいのでしょうか。ウェブサイトの華やかな広告や、安価な料金に惑わされず、以下のポイントを冷静にご自身の目でチェックすることが重要です。- ポイント1:他院修正手術の経験が圧倒的に豊富であること単に「豊胸手術が得意」なだけでは全く不十分です。初回手術と修正手術は、全く別の手術です。カウンセリングの際には、遠慮せずに「先生は、豊胸の他院修正手術を、これまでに何例手がけてきましたか?」と具体的な数字を質問しましょう。医師のウェブサイトやSNS、ブログなどで、ご自身の悩みと類似した修正症例の写真が数多く、かつ詳細な解説付きで掲載されているかは、非常に重要な判断材料となります。
- ポイント2:あらゆる術式に精通していることシリコンバッグしか扱えない、脂肪注入しかできない、といった単一の術式しか専門としない医師では、あなたの状態に対する最適な修正方法を提案できない可能性があります。バッグの入れ替え、除去、脂肪注入、乳房吊り上げ術など、豊胸修正に関連するあらゆる選択肢に精通しており、それらを柔軟に組み合わせて、最適なオーダーメイド治療を提案できる医師を選びましょう。
- ポイント3:初回の失敗原因を的確に分析できること信頼できる医師は、カウンセリングの際に、現在のあなたのバストの状態を丁寧に診察し、「なぜ、初回の結果がこのようになったのか」その原因を、解剖学的な見地から論理的に、そして分かりやすく説明してくれます。「前の先生が下手だったから」といった単純な批判ではなく、科学的な根拠に基づいた分析ができるかどうかが、真の専門医を見極めるポイントです。
- ポイント4:リスクや限界について、正直に話してくれること「必ず完璧に治せます」「100%満足させます」といった安易な言葉を並べる医師よりも、修正手術に伴うリスク(再拘縮の可能性、傷跡の問題、知覚鈍麻など)や、あなたの身体的条件(皮膚の伸び、骨格など)から見た限界点について、包み隠さず正直に説明してくれる医師の方が、はるかに誠実であると言えます。時には、「これ以上の修正はすべきではない」という厳しい医学的判断を下せることも、名医の条件です。
- ポイント5:カウンセリングに十分な時間をかけ、丁寧であることあなたのこれまでの辛い経験や悩み、不安を時間をかけて傾聴し、あなたが抱える全ての疑問が解消されるまで、専門用語を噛み砕きながら何度も丁寧に説明してくれる姿勢は、医師の真摯さを示す最も分かりやすい指標です。

